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Inoue Lab. 近畿大学
宇宙論研究室

Research Highlight

アルマ望遠鏡、暗黒矮小銀河の光をとらえる(近大+東大プレスリリース)

本研究室の井上開輝が率いる研究チーム(峰崎岳夫(東大)、松下聡樹(ASIAA)、千葉柾司(東北大)の計4名)は、チリ共和国に設置された世界最高の性能を誇る巨大電波干渉計「アルマ望遠鏡」による観測で、暗黒矮小銀河(大変小さく暗い銀河)の冷たい塵が放つ微弱な光(電波)と考えられるシグナルを世界で初めて検出しました。この発見は、謎に包まれた暗黒矮小銀河の正体を解明する手がかりになると期待されています。本件に関する論文が、平成29年(2017年)1月30日に米国の学術雑誌「The Astrophysical Journal Letters」(835, No.2, L23)に掲載され、2月9日に近畿大と東大で共同プレスリリースしました。

宇宙物理学の分野で未だに解決できていない難問の一つが「行方不明の矮小銀河問題」です。矮小銀河とは、私たちの住む天の川銀河の約1000分の1以下の質量しかない小さな銀河のことですが、観測されている矮小銀河の数が理論予測より著しく少ないのです。宇宙にはほとんど光って見えない暗黒矮小銀河がたくさん潜んでいるのかもしれません。暗黒矮小銀河とは、名前の通り、大変暗い天体でその正体は謎に包まれています。その謎を解明するには、暗黒矮小銀河の放つ微弱な光を直接とらえるか、重力により近くを通る光の経路を曲げる「重力レンズ効果」を使って質量を測定するか、どちらかしかありません。

私たち研究グループは、地球から114億光年離れた天体クエーサー「MG0414+0534」をアルマ望遠鏡で観測しました。「MG0414+0534」は手前の銀河の重力レンズ効果を受けて4つの像にわかれてみえる重力レンズ天体の1つです。その結果「MG0414+0534」のすぐそばに、冷たい塵(小さな岩や氷の粒)によるものと考えられる微弱な電波(’Y’)を検出しました。'Y'の方向に向かって地球から約60億光年から80億光年はなれた場所に暗黒矮小銀河があると仮定すると、暗黒矮小銀河の重力により、これまで謎であったレンズ像の電波の明るさの比(A1とA2)をうまく説明できることが分かりました。レンズ像の位置を変えることなく、A2をA1に比べ1割だけ減光させることができるのです。さらに、可視光で観測されている、A2の赤化も同時に説明できることが分かりました。暗黒矮小銀河の塵がクエーサーの光を吸収したり散乱させることができるのです。これらのことから、微弱な電波の起源は暗黒矮小銀河であると考えることがもっとも妥当である、という結論に達しました。

本研究により、謎に満ちた暗黒矮小銀河の微弱な光を電波(サブミリ波)で観測するという新しい手法が有効であることが分かりました。研究グループは、今後より高い解像度で観測を行い、重力レンズ像のわずかな歪みから、暗黒矮小銀河までの距離や質量分布などをより精密に測定し、その正体の解明に向けた研究をさらに進めていきます。

 

重力レンズの概念図。遠方の光源 (クエーサー)が手前の銀河の引力で曲げられて多重像(A1,A2,B,C)として観測される。

 

 

2015年6月13日、8月14日にアルマ望遠鏡で観測された重力レンズクエーサーMG0414+0534の画像。色は電波(波長0.9ミリ)の強さを表す。赤丸内が今回初めてとらえられた暗黒矮小銀河起源と考えられる塵の光'Y'。暗黒矮小銀河の重力のためA2の電波強度が減少する。また、暗黒矮小銀河の塵のため可視光でみるとA2の色が赤くなる。

 

 【用語解説】
アルマ望遠鏡……東アジア・北米・ヨーロッパ・チリの諸国による国際プロジェクトによって、チリ共和国北部アタカマ砂漠の標高約5000メートルの高原に設置された干渉計方式の巨大電波望遠鏡。直径12mのアンテナ54台、直径7mのアンテナ12台から成る。

暗黒矮小銀河……太陽質量のおよそ10億倍以下の質量をもつ極めて暗い小さな銀河。その正体は謎に包まれている。

行方不明の矮小銀河問題……観測されている天の川銀河近くの矮小銀河の数(40?50個)が理論予測(数百以上)より著しく少ないこと。その原因は謎である。

重力レンズ……光路の近くの天体の重力により、遠方の光源の光が曲げられ、明るさや位置が変化する現象。またそれを引き起こす天体のこと。

レンズ像……重力レンズ効果を受けた像を指す。

クエーサー……遠方にある恒星状の極めて明るい天体。超巨大ブラックホールの周りを高速で回るガスによる摩擦熱で明るく輝く。クエーサーの周りには塵があり、ガスや星などの光で暖められることにより、電波(サブミリ波)を放射する。

赤化……波長の短い光の成分が塵によって吸収・散乱されることにより、光の色が赤くなること。