無次元フリードマン方程式

次に、より現実的な多成分から成る宇宙モデルを考えよう。ここでは3種類の一様な成分、即ち$w_m=0$の質量(非相対論的粒子)、$w_r=1/3$の輻射(相対論的粒子)、$w_\Lambda=-1$ の宇宙定数($\Lambda $)を含むFRWモデルを考える。この場合、宇宙の過去、現 在、未来の姿はどのようなものになるであろうか? まず、これらの宇宙の成分は全て独立であると仮定する。また各成分の状態方程式パラ メータ $w_X(X=m,r,\Lambda)$は時間的に不変とする。すると、宇宙膨張を表すスケール因子$a$と各成分のエネルギー密度 $\varepsilon _X$の時間発展 $a(t),\varepsilon _X(t)$は以下の方程式を解くことによって求めることができる。
$\displaystyle \biggl(\frac{\dot{a}}{a} \biggr)^2+\frac{\kappa c^2}{R_0^2a^2}
=\frac{8 \pi G\varepsilon}{3 c^2},$     (5.11)
$\displaystyle \dot{\varepsilon}_X+3\frac{\dot{a}}{a} (1+w_X)\varepsilon_X
=0,$     (5.12)
$\displaystyle \varepsilon=\varepsilon_m+\varepsilon_r+\varepsilon_\Lambda.$     (5.13)

この内、流体方程式は各成分に対して独立であるので、$w_X$がそれぞれ 定数であれば、1成分宇宙の場合と同様に$\varepsilon _X$$a$の関数として 解くことができる。$X$成分の現在におけるエネルギー密度 $\varepsilon_{X,0}$ を用いると
\begin{displaymath}
\varepsilon_X(a)=\varepsilon_{X,0}a^{-3(1+w_X)}
\end{displaymath} (5.14)

とかける。つまり、現在$a(t_0)=1$におけるエネルギー密度が分かれば、過去や未来の エネルギー密度も計算することができるのである。 これらの解をフリードマン方程式に代入して微分方程式を解き、現在の曲率半径 $R_0$、エネルギー密度 $\varepsilon_{X,0}$、宇宙の膨張率を表す ハッブル定数$H_0$を与えればスケール因子の時間発展$a=a(t)$が求まる。

さて、宇宙初期を除くと、エネルギー密度は非常に小さい値であるので、無次元の 密度パラメータを用いると分かりやすい。時刻$t$における各成分の密度パラメー タは $\Omega_X(t)=\varepsilon_X(t)/\varepsilon_c(t)$である。計算に必要なのは ある時刻における各成分の密度パラメータの値であるが、 ここでは現在$t=t_0$における値 $\Omega_{r,0},\Omega_{m,0},\Omega_{\Lambda,0}$を考える。さらに ハッブル定数$H_0$が分かれば、宇宙膨張を表すスケール因子の時間発展 $a=a(t)$を完全に決定することができる。これらの密度パラメータを用いてフリードマン方程式を無次元化してみよう。時刻$t$におけるフリードマン方程式は

\begin{displaymath}
H^2(t)=\frac {8 \pi G}{3 c^2}\biggl( \frac {\varepsilon _{m,...
...+\varepsilon _{\Lambda,0}\biggr)-\frac {\kappa c^2}{R_0^2 a^2}
\end{displaymath} (5.15)

とかける。これを現在におけるフリードマン方程式
\begin{displaymath}
H_0^2=\frac {8 \pi G}{3 c^2}\varepsilon _{c,0}
\end{displaymath} (5.16)

で辺々割ると、無次元フリードマン方程式
\begin{displaymath}
\frac {H^2(t)}{H_0^2}=
\frac {\Omega_{m,0}}{a^3}+\frac {\Omega_{r,0}}{a^4}
+\Omega_{\Lambda,0}+\frac {1-\Omega_{tot,0}}{a^2}
\end{displaymath} (5.17)

を得る。ここで $\Omega_{tot,0}=\Omega_{r,0}+\Omega_{m,0}+\Omega_{\Lambda,0}$ は現在の密度パラメータの総和を表す。 式(5.17)の左辺が$t$、右辺が$a$の関数になるように変数分離すると 次のような積分が得られる。
\begin{displaymath}
H_0t=\int_0^a \frac {da}{\sqrt{\frac {\Omega_{m,0}}{a}+\frac {\Omega_{r,0}}{a^2}
+\Omega_{\Lambda,0}a^2+1-\Omega_{tot,0}}}.
\end{displaymath} (5.18)

つまり、右辺を積分することにより$t=t(a)$が求まる。逆変換すれば$a=a(t)$ が求まる。  一般の場合、式(5.18)の右辺の積分を初等的な関数で陽に表すことは出来ず、 数値的に求める必要がある。しかし、2成分の場合は解が比較的簡単に表せる場 合がある。以下、2成分モデルにおける宇宙の膨張の様子を調べていくことにする。