宇宙の計量

空間的に一様等方な時空の空間成分は定曲率空間で表される。対応する 時空の計量はスケール因子$a(t)$を用いて
\begin{displaymath}
ds^2=-c^2 dt^2+a(t)^2 [dr^2+S_\kappa (r)^2 d\Omega ^2]
\end{displaymath} (3.20)

とかける。この計量をフリードマン-ロバートソン-ウォーカー(FRW)計量、 対応する時空をフリードマン-ロバートソン-ウォーカー(FRW) 時空とよぶ。 つまりスケール因子$a(t)$にしたがって時間と共に膨張したり収縮できる定曲率空 間を含む時空である。スケール因子$a(t)$が一定でない限り、たとえ空間成分が ゼロ曲率でもFRW時空は「曲がった」時空であることに注意しよう。なぜなら 力の働いていない質点もスケール因子$a(t)$の変化に従って運動することができ るからである。
今空間を表す座標として極座標 $(r,\theta,\phi)$をとり、世界点 $(ct,r,\theta,\phi)$と微小距離だけ離れた別の世界点 $(ct+cdt,r+dr,\theta+d\theta,\phi+d\phi)$が外力の働いていない質点の 世界線上にあるとする。 世界線が原点$(0,0,0,0)$を通る場合、世界線の 空間成分は $(d\theta=d\phi=0)$をみたす。空間の等方性から外力の働い ていない質点は動経方向にしか運動できない。もし、質点が共動座標 で「静止」しているのであれば$(dr=0)$、微小世界間隔の2乗
\begin{displaymath}
ds^2=-c^2 dt^2 
\end{displaymath} (3.21)

が得られる。
しかし、相対論に不慣れな人達にとって、いつも4次元的な量を考えるのは面 倒である。出来れば3次元の量で表したい。では与えられた4次元時空に対し3次 元的な距離はどのように定義したらよいだろうか? 実はその定義の方法は無限 にある。なぜなら4次元時空から3次元を切り取る方法は無限だからである。しか し、空間の対称性を考慮すると、空間が一様等方、すなわち定曲率空間となる ように切り取ると都合がよい。つまり$t=const.$面をとればよい。その面に対し、 スケール因子$a(t)$は一意に定まるので、3次元的距離は2点間の3次元的測地線の 長さに等しくなる。この距離を固有距離とよぶ。$t=const.$面で世界間隔は
\begin{displaymath}       
dl^2=a(t)^2 [dr^2+S_\kappa (r)^2 d\Omega^2]
\end{displaymath} (3.22)

とかける。観測者が共動座標 $(r,\theta,\phi)$の原点$(0,0,0)$で「静止」しているとする。 このとき、共動座標 $(r=r',\theta',\phi' )$で「静止」している銀河までの固有距離 $D_p(t)$は動経方向の共動座標$r$で積分することにより、
\begin{displaymath}
D_p(t)=l=a(t) \int_0^rdr = a(t)r
\end{displaymath} (3.23)

となる。なぜなら測地線上で角度$(\theta,\phi)$は定数だからである。固有距 離$D_p(t)$の時間微分は銀河の後退速度の大きさとみなせる。
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$v$}=\frac{dD_p (t)}{dt}=\frac{da}{dt} r=\frac{\dot{a}}{a}\times ar
=\frac{\dot{a}}{a}\times D_p (t)
\end{displaymath} (3.24)

より、 $\frac{\dot {a}}{a}{\bigr \vert}_t=H(t)$とおけば任意の時刻$t$においてハッブルの法則
\begin{displaymath}
v(t)=H(t) D_p (t)
\end{displaymath} (3.25)

が成立する。