流体方程式と状態方程式

2つの未知量、即ちエネルギー密度 $\varepsilon(t)$とスケール因子$a(t)$をも つフリードマン方程式を解くには別の方程式がもう1つ必要である。今、 圧力$P(t)$、体積$V(t)$の一様なエネルギー密度をもつ物質の熱力学を考えよう。 この物質に流入する熱量を$dQ$、物質の内部エネルギー変化を$dE$、体積変化を $dV$とすると、熱力学第一法則から
\begin{displaymath}
dQ=dE+PdV
\end{displaymath} (4.13)

の関係式が得られる。もし、宇宙の熱エネルギーが一様でないとすると、熱は 温度の高い部分から低い部分に流れてしまい、宇宙は非一様になってしまう。充 分大きなスケールでは宇宙は一様であるから、宇宙膨張にともなう熱の流れは存 在しないはずである。従って、流入する熱量$dQ=0$である。つまり、宇宙は断熱 膨張する。よって、
\begin{displaymath}
dE+PdV=0
\end{displaymath} (4.14)

が成立する。さて、現在$t=t_0$における体積を$V_0$とすると、時間$t$における体積は スケール因子$a(t)$を用いて $V(t)=a(t)^3 V_0$ と表される。従って、 その微小変化は
\begin{displaymath}
dV(t)=3a(t)^2 V_0 da=3 V(t)a^{-1} da
\end{displaymath} (4.15)

とかける。一方、物質のエネルギー$E$はエネルギー密度 $\varepsilon(t)$を用いて $E(t)=\varepsilon(t)V(t)$と表せる。従って、その 微小変化は
\begin{displaymath}
dE= V(t)d\varepsilon+\varepsilon dV=V(t)(d\varepsilon+3 \varepsilon a^{-1} da )
\end{displaymath} (4.16)

となる。これらを断熱膨張の式に代入すると
\begin{displaymath}
V(t)(d\varepsilon+3 \varepsilon a^{-1} da+3P a^{-1} da)=0
\end{displaymath} (4.17)

が得られる。両辺を$V(t)dt$で割ると、
\begin{displaymath}
\dot{\varepsilon}̇+3 \frac{\dot{a}}{a}(\varepsilon+P)=0
\end{displaymath} (4.18)

が導ける。これを流体方程式とよぶ。
これで方程式が1つ増えたことになるが、未知数も1つ(圧力$P$)増えたので さらに方程式をもう1つ考えなければならない。それがエネルギー密度と圧力の関係 を表す状態方程式 $P=P(\varepsilon)$である。ここでエネルギー密度$\varepsilon$をもつ光よりじゅ うぶんに速度が小さい質量$m$の非相対論的粒子の集団を考えよう。この粒子の集団がな す理想気体の体積、温度、圧力、粒子数をそれぞれ$V,T,P,N$とする。すると理想 気体の状態方程式はボルツマン定数$k$を用いて$PV=NkT$とかける。さて $\rho V=mN$より$P=\rho kT/m$が得られる。またエネルギーと質量の等価性によ り、 $\rho=\varepsilon/c^2$であるから、 $P=\varepsilon kT/(mc^2)$となる。さて粒子の回転の自由度が無視できると 仮定すると、エネルギー等分配則から
\begin{displaymath}
\frac{3}{2} kT= \frac{1}{2} m \bar{v}^2
\end{displaymath} (4.19)

が得られる。ここで$\bar{v}^2$は粒子の速さの二乗平均である。この関係式を用いると、
\begin{displaymath}
P= \frac{\varepsilon \bar{v}^2}{3c^2}
\end{displaymath} (4.20)

が得られる。これが圧力とエネルギー密度の関係を表す非相対論的理想気体の 状態方程式である。一方、粒子の速さが光速に近い若しくは等しい場合、即ち相対論的理想気体の状態方程式は
\begin{displaymath}
P= \frac{\varepsilon \bar{p} \bar{v}}{3\sqrt{m^2 c^4+\bar{p}^2 c^2}}
\end{displaymath} (4.21)

とかける。ここで$\bar{p}$は粒子の運動量の2乗平均値の平方根である。以上よ り、非相対論的な気体の場合は $P/\varepsilon= O(\bar{v}^2/c^2) \approx 0$、 相対論的な気体の場合は $P/\varepsilon \approx 1/3$が得られる。 特に光子など質量ゼロの粒子は真空中では光速$c$で運動するので $P/\varepsilon=1/3$である。 ここで、圧力とエネルギー密度の比、 $w=P/\varepsilon $状態方程式パラメータと呼ぶ。 宇宙スケールにおける現象を表す際、星やガスなど非相対論的物質に対して は$w=0$と近似すれば充分な場合が多い。
まとめると、宇宙の膨張を記述する方程式はフリードマン方程式
\begin{displaymath}
\biggl( \frac{\dot{a}}{a} \biggr)^2+ \frac{\kappa c^2}{a^2 R_0^2}
=\frac{8 \pi G}{3c^2} \varepsilon(t)
\end{displaymath} (4.22)

流体方程式
\begin{displaymath}
\dot{\varepsilon}̇+3 \frac{\dot{a}}{a}(\varepsilon+P)=0
\end{displaymath} (4.23)

状態方程式
\begin{displaymath}
P=P(\varepsilon)
\end{displaymath} (4.24)

の3つである。この3つの方程式と初期条件から3つの未知量、即ちスケール因子 $a(t)$、エネルギー密度 $\varepsilon(t)$、圧力$P(t)$を時間の関数として求めることが出来る。