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Inoue Lab. 近畿大学
宇宙論研究室

Research Highlight

アインシュタインリングから暗黒物質の「むらむら」を発見(井上研)

 私たちの研究グループは遠方にあるサブミリ波銀河SDP.81の高解像度画像を解析した結果、銀河間空間にある暗黒物質(ダークマター)の「むらむら」の痕跡を発見しました。ダークマターは光を出さない謎の質量とされていますが、お互いの重力のため、不均一な構造(=「むらむら」)をもっていると考えられています。従来銀河より小さい質量の「むらむら」を捉えるのは困難とされてきましたが、「天然の宇宙望遠鏡」ともいわれる重力レンズ効果を受けたサブミリ波銀河SDP.81を世界最大の電波干渉計である南米チリのアルマ望遠鏡で観測することによって、1度の200万分の1という小さな角度を識別することが可能になり、今回の発見につながりました。重力レンズ効果とはアインシュタインの一般相対性理論によって予言された時空の曲がりに伴う光の経路のゆがみのことを指します。重力によって時空が曲がると光も曲がるため、質量はあたかも凸レンズの様にはたらきます。SDP.81は手前の別の銀河の重力レンズ効果によって大きく弧状に引き延ばされ、リングとしてみえています(=アインシュタインリング)。私たちはこの手前のレンズ銀河による重力レンズ効果を求め、元の光源の形を再現しました。しかし、再現されたモデルでは説明できない僅かな像のずれが残りました。凸レンズとしてはたらくレンズ銀河だけでなく、もっとはるかに小さい凸レンズと凹レンズが必要であることが分かったのです。凸レンズは小さな銀河かもしれませんが、凹レンズを説明することは出来ません。しかし、ダークマターに「むらむら」があれば、密度の低い領域は凹レンズとしてはたらくので、観測結果をうまく説明することができます。(本研究は、イギリス王立天文学会の学術雑誌「Monthly Notices of Royal Astronomical Society」Inoue, Minezaki, Matsushita, & Chiba MNRAS 2016,  457 (3): 2936-2950に掲載されました。又、国立天文台のALMAサイトでも紹介されています。)

 

 

 サブミリ波銀河SDP.81とその重力レンズ効果。手前のレンズ銀河の重力によって歪められ、アーク状に引き延ばされている。レンズ銀河中にもサブハローと呼ばれるダークマターの塊があると考えられている。銀河間空間にあるダークマターのむらむらの中で物質の少ない領域を「ボイド」、一方向に伸びている連なりを「フィラメント」とよぶ。

 

 再現されたモデルによるサブミリ波銀河SDP.81のアインシュタインリング。実線の円内に高密度(凸レンズ)、実線と点線の間に低密度(凹レンズ)のダークマターから成る「むらむら」がある。