我々の宇宙には物質だけでなく輻射成分も含まれている。輻射成分のエネルギー
密度はスケール因子
の4乗に反比例するため、宇宙初期において質量や宇宙定
数
に比べ優勢であるはずである。輻射成分を採り入れると、
平坦な質量-
宇宙モデルを用いた宇宙年齢にどれほど影響を及ぼすので
あろうか?
宇宙の輻射成分として考えられるのは光子であるが、宇宙初期ではニュートリノ
も輻射成分として考える必要がある。それはなぜだろうか?
ニュートリノの質量の大きさは不明であるがその値は電子や陽子に比べ
非常に小さい(
eV)と考えられている。
したがって、高温の宇宙初期においてニュートリノは電子や陽子と同じく光速に近い速
さで運動し、弱い相互作用をしながら様々な粒子と衝突を繰り返している。この
時代では全ての粒子は見分けがつかず、宇宙の温度
で表される熱平衡状態に
ある。
しかし、宇宙膨張と共に粒子の密度が下がっていくと、他の粒子に出会うチャン
スが少なくなり、熱平衡状態を保つことが困難になってくる。ニュートリノは
電磁相互作用に比べ、非常に「弱い」相互作用(いわゆる弱い相互作用)しか
しないため、宇宙の温度が比較的高い(
)時期にプラズマ状態にある粒子の集団から外れてしまう(脱結合)。
この脱結合時の温度が電子の質量エネルギーに対応する温度
よりも大きいため、電子は依
然として光速に近い速さで運動しているが、その後、宇宙の温度が下がっていく
と、やがて電子の速度が光速よりも遅くなり、電子と陽電子が衝突して対消滅し、光子
ができる反応によって、ほとんどの電子と陽電子が消えてしまう。この対消滅に
伴って新しく生まれる光子による「加熱」のため、熱平衡状態にあるプラズマ粒子の
温度の低下は幾分か抑えられる。一方、ニュートリノはもはや電子や光子と
相互作用しないので、新しく生まれた光子による「加熱」は期待できない。する
とニュートリノの「温度」は光子の温度より下がってしまうのである。
詳しい計算によると脱結合以降のニュートリノの温度
は光子の温度
を用いて
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(5.28) |
と表せる。また、3種類あるニュートリノ
の
各エネルギー密度
は光子のエネルギー密度
を用いてそれぞれ
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(5.29) |
と表せる。つまり、全輻射密度パラメータは光子の密度パラメータを用いて
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(5.30) |
とかける。ここでニュートリノの種類の数である
ではなく、
をかけているのは、ニュートリノが脱結合する際の非平衡過程の効果を
採り入れているためである。さて、光子の密度パラメータはCMBの温度
より、
と求まるので、結局
となる。
つまり、現在、輻射エネルギーの寄与は質量エネルギーの約1/3400となり、大変小さい
ことが分かる。
しかし、過去に向かって時間を遡ると、輻射エネルギー密度と質量エネルギー密
度の比は段々大きくなり、ついにある時刻において両者は同じになる。
この時刻
を輻射質量等価時と呼ぶ。
におけるスケール因子は
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(5.31) |
で与えられる。
は非常に小さいため、輻射と質量のエネルギー密
度の寄与が同じくらいの時代において宇宙定数
の寄与はほとんど無視できる。
従って、質量と輻射を含む2成分モデルを考えれば充分である。
宇宙が平坦であると仮定すると、宇宙時間
は式(5.18)より、
で与えられる。
を代入すると、
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(5.33) |
が得られる。つまり、輻射エネルギーの寄与が他の成分に比べ
大きかった期間は宇宙が始まって以来、高々5万年程度である。この値は質量-宇宙定数
モデルで求めた宇宙年齢
(138億年)に比べ遙かに小さいため、宇宙年齢を高々3桁程度の精度で計算するた
めであれば、輻射の影響は考慮しなくてもよいことが分かる。
さて式(5.32)の右辺から得られる
に関する3次方程式を解くこと
により、スケール因子
が宇宙時間
の関数として求まる。しかし、やや複雑な表式になるので、
ここでは輻射優勢時(
)と質量優勢時(
)の二つの時代に分けて宇宙膨張
を考えよう。
とおくと、
より、
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(5.34) |
となるので、輻射優勢時(
)では
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(5.35) |
となる。前節で導出した通り、
が確かめられる。
同様に、質量優勢時(
)では
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(5.36) |
となる。つまり、
である。