光度距離

遠方の天体までの固有距離を直接測定することは非常に難しい。なぜなら、天体 が光を発した時刻と我々が観測する時刻は大きく異なり、その間に宇宙は膨張し てしまうからである。観測値が同じでも、膨張の様子が違えば、固有距離も違っ てしまうであろう。とりあえず宇宙は平坦で静止していると考え、観測値から 直接決まる様々な「距離」を定義すると便利である。その1つに天体の明るさ、 すなわち光度(単位W)を用いる光度距離がある。いま、光度$L$が既知であ る標準光源Sを考えよう。簡単のため、Sは等方に光を発しているとする。観測者が受 け取る光のフラックス、即ち単位面積当たり単位時間に受け取る光のエネルギー $f[\textrm{W}/\textrm{m}^2]$は、光源Sまでの「距離」を$d_L$とすると、空間 が平坦であれば、
\begin{displaymath}
4 \pi d_L^2 f=L
\end{displaymath} (6.7)

を満たす。即ち、
\begin{displaymath}
d_L=\sqrt{\frac {L}{4 \pi f}}
\end{displaymath} (6.8)

であるが、この式で定義される$d_L$が光度距離である。$f$は観測量であるから、 $L$さえ決まっていれば、宇宙モデルによらず、計算することが出来る。 宇宙が膨張していたり、空間的に曲率をもつ、すなわち時空が歪んでいる場合は 一般的に光度距離と固有距離が等しくならないことに注意しよう。

原因は2つある。第1の原因は、時間の伸びの効果である。 FRW宇宙を考え、スケール因子$a_e=1/(1+z)$のときに、その天体が静止している系 で$\delta t_e$の時間間隔で天体が光を出したとしよう。我々が観測する光の時間間 隔は $\delta t_0=\delta t_e/a_e=\delta t_e (1+z)$となる。つまり、光の時間 間隔は長くなる。これは遠方の天体はスローモーションで動いているようにみえ ることを表している。さらに、静止系における各光子のエネルギー $E_e=h c/\lambda_e$は、 赤方偏移により$E_0=E_e/(1+z)$であると観測される。これも遠方の天体がスローモーションで振動しているためである。 一方、観測されるフラックス$f_0$は光子のエネルギーに比例し、時 間間隔に反比例するので、もとのフラックス$f_e$に比べ減少する。即ち $f_0=f_e/(1+z)^2$と なる。よって光度距離は$1+z$に比例する。

第2の原因は、空間の曲がりの効果である。観測者を原点にとり、$t=t_0$におい て固有距離$d_p=r$一定として得られる2次元球面を考える。このとき球面の表面 積は $A(t_0)=4 \pi S_\kappa (r)^2$で表される。ここで$S_\kappa(r)$

\begin{eqnarray*}
S_\kappa(r)=\left\{
\begin{array}{lll}
R_0 \sin(r/R_0) & (\kap...
...(\kappa=0)\\
R_0 \sinh(r/R_0) & (\kappa=-1)
\end{array} \right.
\end{eqnarray*}

である。従って、球面積を半径$r$の2乗で割って得られる全立体角 $\omega_\kappa(r)$

\begin{eqnarray*}
\omega_\kappa(r)=\left\{
\begin{array}{lll}
4 \pi [\sin(r/R_0)...
...4 \pi [\sinh(r/R_0)/(r/R_0)]^2 & (\kappa=-1)
\end{array} \right.
\end{eqnarray*}

となる。一般に$\theta$を任意の角度とすると $\sin \theta/\theta<1, \sinh
\theta/\theta<1$より、全立体角$\omega_\kappa$は空間のガウス曲率が正ならば $4 \pi$より小さく、負ならば$4 \pi$より大きい。いいかえると、光子が拡がる 面積は、前者の場合小さく、後者の場合大きくなるのである。観測されるフラッ クスは球面積に反比例するので、空間のガウス曲率が正ならば フラックスは大きく、負ならば小さくなる。つまり、空間の曲率を考慮すると、 $fA(t_0)=f\omega_\kappa(r) r^2=L$ であるから、
\begin{displaymath}
\frac {L}{f}=\omega_\kappa(r) r^2
\end{displaymath} (6.9)

が成り立つ。結局、光度距離は$t=t_0$において
\begin{displaymath}
d_L(r)=\sqrt{\frac {\omega_\kappa(r)}{4 \pi}} r(1+z)
\end{displaymath} (6.10)

と表せる。$1+z$は時間の伸びの効果、 $\sqrt{\frac {\omega_\kappa(r)}{4 \pi}}$は 空間の曲がりの効果を表す。