角径距離

光度の代わりに 標準ものさしを基準にして距離を定義することも出来 る。いま、固有長$l$が既知の天体を考える。光度距離の場合と同様、宇宙は平 坦で静止していると仮定する。天体までの距離は充分遠いため天体を見込む角度 $\delta \theta$は大変小さい($\ll 1$)と仮定しよう。すると、天体までの距 離$d$ $d \delta \theta=l$を満たす。つまり、$l$と観測量$\delta \theta$ を用いて距離を求めることが出来る。同様に曲がった膨張宇宙の場合にも同じ定 義を用いた場合、その距離
\begin{displaymath}
d_A=\frac {l}{\delta \theta}
\end{displaymath} (6.11)

角径距離と呼ぶ。FRWモデルにおいて赤方偏移$z$の天体までの 角径距離は、天体を中心とし、観測者を含む 共動半径$r$の球面の全立体角 $\omega_\kappa(r)$を用いて
\begin{displaymath}
d_A(r)=\sqrt{\frac {\omega_\kappa(r)}{4 \pi}} r(1+z)^{-1}
\end{displaymath} (6.12)

と表せる。その理由は以下の通りである。光度距離の場合と同様に 観測者を中心とする球座標系 $(r,\theta,\phi)$を取ってみよう。 光は $d\theta=d\phi=0$を満たすヌル測地線に沿って観測者に到達する。 今、天体の幅を見込む角度が$\delta \theta$であったとしよう。すると 天体が光を発した時刻が$t=t_e$のとき、$t=t_e$面における天体の幅、 即ち固有距離は
\begin{displaymath}
\delta l=a(t_e)S_\kappa(r) \delta \theta=\frac {\omega_\kappa(r)}{4
\pi}a(t_e)r \delta \theta
\end{displaymath} (6.13)

である。 $d\theta=d\phi=0$より、現在$t=t_0$に到るまで、天体の幅を見込む 角度$\delta \theta$は変化しない。従って、
\begin{displaymath}
d_A(r)=\frac {l}{\delta \theta}=\frac {\omega_\kappa(r)}{4 \pi}a(t_e)r
\end{displaymath} (6.14)

となり、 $a(t_e)=1/(1+z)$より、式(6.12)が得られる。 宇宙が平坦な場合$(\kappa=0)$、角径距離は天体は光を発した時間一定面におけ る固有距離に等しい。即ち
\begin{displaymath}
d_A(r)=a(t_e)r=d_p(t_e;t_e)
\end{displaymath} (6.15)

である。標準宇宙モデルでは、角径距離は$z$がある程度以上大きくなると、減 少し始める。つまり、より古い天体ほど見かけの大きさが大きくなる。 いいかえると、「遠い」天体ほど近くにあるようにみえるのである。 しかし、光度距離は $d_L=(1+z)^2 d_A$を満たすので、明るさは常に減少する。 これら一見不思議な効果は全て時空の歪みに起因する。