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Inoue Lab. 近畿大学
宇宙論研究室

News

25年度の学士論文テーマ

平成25年度(26年3月卒業生)の学士論文テーマです。(近畿大学理工学部理学科宇宙論研究室)

中川 知哉 「宇宙膨張の高階微分 ~jerk、snap、crackle~」

 1929 年にハッブルが幾つかの遠方の銀河の赤方偏移を観測し、距離が遠い銀河ほど大きな速度で我々から遠ざかっていることを発見した(ハッブルの法則)。一方、これに先立つ1915 年にアインシュタインは「宇宙は膨張も収縮もしていない『静止宇宙』」と考えていたため、重力の効果を打ち消す働きをする宇宙定数を考案した。しかし、近年の観測で宇宙の加速膨張がみつかり、宇宙定数は再び必要とされるようになった。ただし、時間変化するダークエネルギーの可能性もある。本論文では、宇宙の減速パラメータjerk(加速度の時間変化)、snap(jerk の時間変化)、crackle(snap の時間変化) を使ったモデルの性質を調べる。今回は固有距離とこれらの高階微分との関係について調べた結果について報告する。

松永 高明 「温かいダークマターによる宇宙の構造形成」

 現在の宇宙に存在する天体は偏りを持って宇宙空間に分布し、豊かな階層構造を持っている。宇宙は100Mpc 以上の大きなスケールで考えるとほぼ一様になるが、それよりも小さいスケールでは非等方で非一様である。この非等方で非一様である宇宙空間の偏りは、宇宙初期の宇宙の密度ゆらぎによって形成されたものである。密度ゆらぎの成長は大きなスケールでは線形的であるが小さなスケールになると非線形的であり、重力とダークマターとよばれる物質の性質が深く関係している。WDM(温かいダークマター) は小さなスケールでは粒子の自由運動によってゆらぎが掻き消されてしまう(無衝突減衰)。一方、CDM(冷たいダークマター) はこの無衝突減衰は起こらない。WDMの非線形ゆらぎが、どのように成長するかを数値的にシミュレーションし、CDM とWDMの非線形パワースペクトルの違いについて考察する。

仲本 貴登 「ホライズンを超えた揺らぎから探る宇宙のトポロジー」

 我々の住む地球は太陽系に属しており、太陽系は天の川銀河に属している。我々の住む世界と比べると、宇宙は限りなく広く、“ 無限”と捉えることができる。しかし、我々が知らないだけで、宇宙は有限かもしれない。もし宇宙の大きさが有限で定曲率と仮定すると、曲率により宇宙のトポロジーを3つに分類することができる。トポロジーが非自明であれば、宇宙は周期的になる。また、宇宙はなめらかであると仮定すると、ホライズン内の揺らぎから、宇宙全体の様子を探ることができるはずである。今回、一次元揺らぎを考え、ホライズン内でフーリエ変換を行うことで、ホライズンを超えた揺らぎの再構築を試みた。このことから、宇宙の揺らぎを厳密に再現することで、宇宙のトポロジーを調べることができるか否か考察する。

樽谷 寛士 「宇宙マイクロ波背景輻射の温度揺らぎを用いた宇宙のトポロジーの制限」

 宇宙マイクロ波背景輻射(Cosmic Microwave Background :CMB) の温度分布には、方向による温度の違い、すなわち温度揺らぎが存在している。CMB は現在の科学技術で観測される宇宙最古の化石であり、CMB 光子が出発した地点までの共動距離はすべての天体より大きいため、宇宙のトポロジー(位相)について厳しい制限を与える事が出来る。本研究ではCMB の温度解析プログラムを用いて、WMAP 衛星による観測データをもとに全天マップを描き、ランダムに選択された2つの円のペア上の温度揺らぎを数値化し、相関をとる事によって、宇宙のトポロジーについて制限を与える。

藤原 広宜 「クエーサーB0128+437 の重力レンズモデル」

 4 重像クエーサー銀河レンズ系において、多重像間のフラックス比の観測値と理論値が大きく異なる場合がある。それらは「フラックス比異常」と呼ばれ、その要因として10^(6-9) 太陽質量程度のダークハローの存在による摂動の可能性が考えられている。本研究ではKeckII 望遠鏡を用いて近赤外線で観測された位置データ、超長基線電波干渉計(VLBI) を用いて電波で観測された位置データ、多素子電波干渉計網(MERLIN) を用いて電波で観測されたフラックスデータ、以上の3つのデータを用いることにより精度の高い4 重像クェーサーB0128+437 の重力レンズモデルを作成し、そのようなダークハローが必要であるか否かについて報告する。

高橋 誠 「4 重像クエーサーRXJ1131-1231 のモデリング」

 銀河の周りにはダークマターがあると言われている。それは光学的に観測できないが重力レンズを用いて質量分布を見積もることができる。10^(6-9)太陽質量のダークハローを調べるためには4 重像クエーサーを用いればよい。その重力レンズモデルを作るためにはクエーサーの位置とフラックスがわからなければならない。しかしフラックスを見積もるのが難しい。なぜならクエーサーのホスト銀河がフラックスに寄与してしまうからである。今回クエーサーの位置からレンズ銀河ハローの重力ポテンシャルが推定されていRXJ1131-1231 のホスト銀河の輝度分布を見積もった。その結果について発表する。