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Inoue Lab. 近畿大学
宇宙論研究室

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「温かい」ダークマターはどれだけ重たいか?(井上研)

我々の研究グループ(井上、高橋、高橋、石山)はクェーサーと呼ばれる遠方の天体の光の軌道が重力によって曲げられる「重力レンズ」現象の解析と最新のコンピューターを用いた宇宙シミュレーションの結果から、「温かい」ダークマター(WDM)粒子の質量に制限をつけました。その結果、「温かい」ダークマター粒子の質量は電子の質量の約400分の1よりも大きくなければならないということが分かりました。これは遠方のライマンα雲(中性水素のガス雲)の観測から得られた従来の制限と一致しており、宇宙に存在するダークマターの候補として考えられてきた「温かい」ダークマターの可能性は一段と低くなったといえます。(論文はこちら:MNRAS プレプリントはこちら: http://arxiv.org/abs/1409.1326)(注)ここでいう「温かい」ダークマターとは熱浴と相互作用する粒子の中で、粒子数凍結時に光速に近い速さで運動し、かつコールドダークマター(CDM)よりもやや小さい質量エネルギー(keV程度)を持つものです。質量が軽いため宇宙初期に矮小銀河スケール以下のゆらぎをかき消す効果を持っています。

 

シミュレーションから求められた様々な赤方偏移(z=0,0.3,1,2)におけるWDMの質量密度揺らぎのパワースペクトル(丸印)。横軸は波数、縦軸はパワー×波数の2乗(視線方向に積分した質量密度の2乗に比例)を表す。WDM4.8は減衰を始めるスケールに対応する波数が4.8h/Mpcであることを意味する。この波数が小さいほどWDMの質量と小スケールにおける揺らぎが小さくなる。非線形効果のため、zが小さくなるほどCDMモデル(赤色)との差は小さくなっていく。実線はシミュレーションで求められた値を簡単な式でフィットしたときの値を示している。