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Inoue Lab. 近畿大学
宇宙論研究室

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ダークハローまでの距離を測る新手法を考案

宇宙論研究室の井上開輝教授が重力レンズ効果を用いたダークハローまでの距離を測る新手法を考案し、その結果が2025年1月24日に宇宙論や宇宙粒子物理学に関する学術雑誌JCAP(Journal of Cosmology and Astroparticle Physics)に掲載されました。

 

研究の背景:1Mpcより小さいスケールで冷たいダークマターモデルが正しいかどうかまだよく分かっていません。近年、クエーサーや銀河を光源とする重力レンズ多重像の観測により、視線方向にある銀河より小さい矮小銀河スケールの構造(小質量ダークハローなど)が明らかになりつつありますが、光学的にはほとんど見えないため、検出されたダークハローまでの視線距離を測定するのは困難であると考えられてきました。

 

研究の内容:本研究では「主レンズ+副レンズ」という2つの重力レンズのペアを仮定しました。主レンズによる重力レンズ効果を取り除いてもわずかな残る多重像間の像の違いは、副レンズによる重力レンズ効果と考えられます。今回はその副レンズによる効果として見られる特徴的なパターン「Bモード」に着目しました。初めて理論的な定式化を行い、従来測定されてきた「Eモード」と「Bモード」を比べ、簡単なモデルで「Bモード」の振幅がどのくらいの大きさになるかを調べました。また、この「主レンズ+副レンズ」というシステムにおいて、主レンズ面の質量シート縮退と呼ばれるパラメータの縮退現象を初めて解析しました。

 

研究の結果: 「Bモード」の振幅は「Eモード」の振幅のおよそ1/3程度になることが分かりました。また、視線距離を「Bモード」の観測値から推定する手法が分かりました。また、主レンズ面や副レンズ面における質量シート縮退によって、測定された視線距離に不定性が生じるものの、もし、重力レンズ像の時間遅延が測定されれば、これらの縮退を解くことができることが分かりました。

 

研究の影響:これまで不明であった、視線距離を「Bモード」の観測値から推定する手法が解明されたことにより、観測量から光学的に暗いダークハローまでの視線距離を測定することが原理的には可能になりました。今後は、より現実的なモデルで「Bモード」の振幅を調べ、ダークハローまでの視線距離を観測的に明らかにすることが重要であるものと思われます。

 

 

1,3, Sherry H. Suyu1,3,4, Stefan Tauberger1, Kaiki Taro Inoue5,
and Anton T. Jaelan

著者: Kaiki Taro Inoue

論文タイトル: Measuring Line-of-sight Distances to Haloes with Astrometric Lensing  B-mode

掲載雑誌名: Journal of Cosmology and Astroparticle Physics

インパクトファクター: 5.3 (2023)

公開日: 2025年1月24日

論文プレプリント: ArXiv

論文: JCAP