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Inoue Lab. 近畿大学
宇宙論研究室

Research Highlight

重力レンズ「異常なフラックス比」の原因を解明

遠くの天体が手前の銀河によって4重に分裂してみえる現象を4重像重力レンズと呼びます。4重像の位置や明るさを観測することで、レンズとなる銀河の構造や、視線方向にあるみえない質量のゆらぎを調べることが出来ます。レンズとなる銀河が楕円体の形をしているときは、楕円の形をした質量分布を考えることで、4重像の位置をうまく説明することが出来ます。しかし、幾つかのレンズでは、4重像の明るさの比はうまく説明することが出来ないことが知られています。これを「フラックス比異常」と呼びます。その原因として2つの効果が挙げられます。1つ目は、レンズ銀河の中の暗い矮小銀河による重力です。たまたま、レンズを通る光路中に、矮小銀河があれば、小さな凸レンズの効果を及ぼします。2つ目は、光源となる天体から我々までの光路中にある質量のむらです。その多くは光って見えないダークマターだと考えられています。ダークマターは場所によって密になったり、疎になったりするので、小さな凸レンズや凹レンズの効果を及ぼします。この2つの効果の内、どちらが主な原因であるかはよく分かっていませんでした。今回、我々は最新の超高解像度N体シミュレーションを用いて得られた暗い矮小銀河の空間分布と、視線方向のダークマターのむらに関する理論予測を使い、11個の観測された4重像重力レンズに対し、どちらの効果が強いのかを調べました。その結果、後者の効果が前者の効果より強いということが分かりました。つまり、「フラックス比異常」は主に、視線方向のダークマターのむらによって引き起こされているということが判明したのです。もし、この説が正しいとすると、光源までの距離が遠いほど、光がダークマターのむらを通る確率が高くなるので、「フラックス比異常」が大きくなるはずです。実際、光源までの距離が大きいサンプルを調べてみたところ、「フラックス比異常」は光源まの距離に比例して大きくなっていることが判明しました。今後、小さな凹レンズの効果がみつかれば、さらに我々の説を裏付けるものとなるでしょう。この結果はイギリス王立天文学会の学術雑誌 Monthly Notices in Royal Astronomical Society (2016)に掲載されました。

縦軸は小さな凸(凹)レンズの質量密度、横軸は光源までの距離(赤方偏移)を表す。左上はスムースなポテンシャルでレンズ像をフィットしたときの観測値。右上は視線方向の質量ゆらぎによる寄与、左下はレンズ内の矮小銀河(サブハロー)の寄与を理論的に求めた値。右下は、観測(赤)と理論(青)の値を表す。サブハローの寄与はあまり距離によらないが、視線方向の質量ゆらぎによる寄与は距離に比例して大きくなる。