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Inoue Lab. 近畿大学
宇宙論研究室

重力レンズで探る暗黒銀河とダークマター

遠方の天体の光が視線方向の天体の重力によって曲げられることによって、本来の像よりも明るくなったり、像が歪んだりする現象を「重力レンズ」とよびます。私たちはこの効果を使って、宇宙にある物質の約80%を占める謎の暗黒物質(=ダークマター)が宇宙にどのように分布しているのか解明するため、理論および観測的な手法により研究を行っています。特に、遠方のクェーサー(QSO)と呼ばれる非常に明るい天体が手前にある楕円銀河によって4重像に分かれてみえる「4重像レンズ」に着目し、4重像のフラックス(明るさ)と位置からレンズを引き起こす物質分布を推定しています。楕円銀河のレンズモデルを用いて観測値にフィットしたとき、4重像の位置はよく合うが、フラックスの比が合わない場合「フラックス比異常」と呼びます。従来、この異常はレンズ銀河内の(ダークマターの塊=サブハロー)によって引き起こされているものと考えられていましたが、私たちは、視線方向にあるダークマターの構造(ボイド、ハロー、フィラメント)によっても十分説明可能であるということを明らかにしました。これらの構造の質量は太陽質量の1億倍から10億倍程度と考えられていますが、その正体は謎に包まれています。サブハローや銀河間にあるハローの中にはとても暗い暗黒銀河がたくさん潜んでいることでしょう。これらの天体は明るい銀河のビルディングブロックとして、重要な役割を果たしているかもしれません。私たちは高い解像度を持つ電波干渉計(ALMA望遠鏡)を使って多くの「4重像レンズ」を観測し、これらの構造の正体を明らかにすることに挑戦しています。また、数値シミュレーションを行い、ダークマターが冷たいダークマターと呼ばれる速度の小さい粒子なのか、温かいダークマターと呼ばれる速度の大きい粒子なのかを決めることにも挑戦しています。

重力レンズの概念図。QSOを出発した光が視線方向の多数の天体の重力によって曲げられ、私たちに届く。
4重像QSO MG0414+0534 の赤外画像(左図 Falco et al.)と中間赤外画像(右図 Minezaki et al.)