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Inoue Lab. 近畿大学
宇宙論研究室

宇宙最大の構造を探る

「コールドスポット」の起源としての超巨大ボイド

その昔宇宙は「つるつる」でのっぺらとした状態でしたが、ごくわずかに密度が高い領域は、お互いの引力によって引き寄せられ、さらに密度が高くなり、それらが成長して今日の星や銀河などの構造を作ったと考えられています。これらの構造は時空を少しだけ曲げるため、構造を通過する光の通り道やエネルギーを変化させることができます。2004年にVielva達は宇宙マイクロ波背景輻射の温度揺らぎ中に、平均値に比べ異常といえるほど温度が低い「コールドスポット」があることを発見しました。2006年に、その原因として我々は「超ボイド説」(Inoue & Silk, 2006)を提唱しました。超ボイドとはその領域内の質量密度が宇宙の平均値に比べ2、3割低い巨大な構造のことを指します。形はほぼ球形でその半径は約15億光年に及びます。宇宙が加速膨張をしているとき、超ボイドの作る重力ポテンシャルの山の高さは徐々に小さくなっていきます。したがって、そこを通過する光のエネルギーは小さくなり温度がみかけ上低くなったようにみえるはずです。2015年にSzapudi達は地球から約30億光年の彼方にこのような超ボイドが確かにあるらしいという観測結果を発表しました。もし、本当だとすれば、みつかった超ボイドは「宇宙最大の構造」ともいえるでしょう。「宇宙最大の構造」は本当に最大なのか、なぜそのような大きな構造が出来たのか、宇宙が加速膨張している理由は何なのか、超ボイドの研究をきっかけとして謎の解明に拍車がかかるかもしれません。

宇宙マイクロ波背景輻射の温度揺らぎ(WMAP衛星による)と「コールドスポット」(赤丸内)。赤色は高温、青色は低温を表す。
地球から約30億光年の彼方におけるコールドスポット周辺の質量密度分布(Szapudi et al. 2015)。
赤い部分は質量密度が高く、青い部分は小さい。